| ■ 日本共産党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する質問主意書 |
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98.3.12提出 第17号
日本共産党幹部宅盗聴事件の事実認定と責任所在などに関する質問主意書
法務省が提出を準備している組織的な犯罪に対処するための三法案を検討する前提として、一九八六年の日本共産党国際部長・緒方靖夫氏(当時)宅盗聴事件について、事実の確認と責任の所在を明確にするため、以下質問する。また、逮捕状、捜索状などの令状請求手続きについても現状を把握した上で、現行制度の適否を問いたい。いずれも政府の統一的な見解を求める。国会法第七十五条第二項の期限内に回答されたい。
一 事実認定
(1)政府はそもそも、裁判所の確定判決が示した事実認定の持つ意味をどう考えるか。
*民事の確定判決については、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第百十四条第一項が、「確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。」と定めており、判決理由中の事実認定は、既判力を有さず、法的には拘束力はないと解されている。刑事の確定判決については、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第三百三十七条第一号により公訴事実の同一性の範囲内で一事不再理効があり、また、同法第四百七十一条により執行力がある。
(2)行政府が確定判決の内容と異なる見解を示し続けることは現行憲法下、可能と考えるか。例えば、死刑確定者の判決と異なる事実認定を主張し、刑を執行しないことはあり得るのか。
*裁判所の判断に法的に拘束力が認められる範囲においては、これと異なる主張をすることはできない。それ以外においては、法的には裁判所の判断と異なる主張をすることは可能であるが、一般に、行政府は、国が当事者となった訴訟の確定判決における裁判所の判断を尊重すべきものと考える。
なお、刑事の確定判決に基づく刑の執行の指揮は、検察官の職務上の義務であり、一般に、検察官は、刑の執行の指揮において刑事の確定判決に反することは許されない。
(3)前項のように行政府が司法の最終判断と異なる見解を示し、司法の場で問われた行政の責任を否定し続けた場合、裁判所が認定した権利の侵害はどのような形で改善、賠償されるのか。
*国は、国が当事者となった民事訴訟の確定判決の主文において示された国の賠債義務等を履行する貴任がある。
(4)緒方氏宅盗聴事件の捜査経緯、被疑者の刑事処分、刑事処分を決めた理由をそれぞれ明らかにされたい。
*御質問の事件については、日本共産党国際部長であった緒方靖夫氏から、東京地方検察庁に、昭和六十一年十一月二十八日、氏名不詳者を被疑者として、電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)違反(通信の秘密侵害)、有線電気通信法(昭和二十八年法律第九十六号)違反(通信妨害)及び偽計業務妨害罪による告訴・告発が、昭和六十二年六月十日、氏名不詳の警察官らを被疑者として、公務員職権濫用罪による告訴が、それぞれなされた。同検察庁検第官は、所要の捜査を遂げた上、同年八月四日、神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官二名について、電気通信事業法違反につき起訴猶予、有線電気通信法違反につき嫌疑不十分、偽計業務妨害罪及び公務員職権濫用罪につき嫌疑なしを理由とする不起訴処分をしている。
これらのうち、電気通信事業法違反については、同検察庁検察官は、被疑者両名による通信の秘密侵害の未遂の事実を認めたが、被疑者両名は個人的利欲に基づいて本件を犯したものではないこと、被疑者両名が本件の首謀者ないし責任者的立場にあるとは認め難いこと、警察において、本件につき深く遺憾の意を表するとともに、かかる事態の再発防止に努めることを誓約するなどしており、今後本件のような事犯が発生しないことを期待し得ること等の諸事情を総合勘案して、起訴を猶予するのが相当と判断したものである。また、有線電気通信法違反については、被疑者両名が電話線を切断するなどして通信を妨害したと認めるには至らなかったことから、犯罪の嫌疑が不十分であり、偽計業務妨害罪については、被疑者両名の行為が緒方靖夫氏による電話の通話及びこれを利用してなされる業務を妨害するようなものであったとは認められないことから、犯罪の嫌疑がなく、公務員職権濫用罪については、被疑者両名の盗聴行為は、警察官によるものであることを他人に察知されないようになされたものであって、公務員の職権行使の外観を装って行われたものではない上、通信を妨害しようとしてなされたものでもないので、犯罪の嫌疑がないと判断し、それぞれ嫌疑不十分又は嫌疑なしを理由とする不起訴処分をしている。
(5)本件事件に関して、緒方氏が申し立てた付審判請求の決定、検察審査会の議決について政府が把握している内容を明らかにされたい。また、その後の捜査経過、刑事処分とその理由をそれぞれ明らかにされたい。
*一の(4)についてで述べた公務員職権濫用罪に係る不起訴処分に関しては、昭和六十二年八月十日、緒方靖夫氏から、東京地方裁判所に対し、警察官四名に係る公務員職権濫用被疑事件について付審判請求がなされ、昭和六十三年三月七日、同裁判所において、同請求を棄却する決定がなされ、同年四月六日、緒方靖夫氏から、東京高等裁判所に対し、同決定を不服とする抗告の申立てがなされ、同年八月三日、同裁判所において、同抗告を棄却する決定がなされた。そして、同月六日、同人から、最高裁判所に対し、同決定を不服とする特別抗告の申立てがなされ、平成元年三月十四日、同裁判所において、同特別抗告を棄却する決定がなされている。
最高裁判所の前記特別抗告棄却決定は、「刑法百九十三条の公務員職権濫用罪における「職権」とは、公務員の一般的職務権限のすべてをいうのではなく、そのうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担ないし不利溢を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいい(中略)、同罪が成立するには、公務員の不法な行為が右の性質をもつ職務権限を濫用して行われたことを要するものというべきである。」、「これを本件についてみると、被疑者らは盗聴行為の全般を通じて終始何人に対しても警察官による行為でないことを装う行動をとっていたというのであるから、そこに、警察官に認められている職権の濫用があったとみることはできない。したがって、本件行為が公務員職権濫用罪に当たらないとした原判断は、正当である。」と判示している。
また、一の(4)についてで述べた不起訴処分に関しては、昭和六十二年九月八日、緒方靖夫氏から、東京第一検察審査会に対し、前記四名のほか氏名不詳者を含む警察官に係る電気通信事業法違反、有線電気通信法違反及び公務員職権濫用被疑事件につき、不起訴処分の当否の審査の申立てがなされ、同審査会は、昭和六十三年四月二十日、被疑者三名に対する電気通信事業法違反の点についての不起訴処分は不当であり、その他の各不起訴処分はいずれも相当である旨の議決をしている。
東京地方検察庁検察官は、同議決を受けて、同年四月二十七日、同議決により不起訴処分が不当とされた電気通信事業法違反事件を再起立件して、更に所要の捜査を遂げ、同年十二月十四日、二名につき起訴猶予、一名につき嫌疑不十分を理由とする不起訴処分をしている。
この起訴猶予の理由については、同検察官は、昭和六十二年八月四日になされた起訴猶予による不起訴処分の理由に加えて、被疑者両名とも懲戒処分を受け、また、犯行に関与した者として広く報道されるなど既に相応の社会的制裁を受けていること、被害者両名とも反省の意を表し、法に従い、適正な公務の執行に当たることを誓約していること、警察の自浄作用により、同種事犯の再発防止が十分期待できること等を総合勘案したものである。
また、その他の一名については、再捜査によっても、本件に加功したと認めるに足りる証拠が得られなかったことから、嫌疑不十分を理由とする不起訴処分をしたものである。
(6)前項の付審判請求に対する決定では、本件盗聴についてどのような事実認定がされたと認識しているか。
*最高裁判所は、緒方靖夫氏からの付審判請求事件の特別抗告審において、警察官である被疑者二名は、「職務として、日本共産党に関する警備情報を得るため、他の警察官とも意思を通じたうえ、同党中央委員会国際部長である請求人方の電話を盗聴したものであるが、その行為が電気通信事業法に触れる違法なものであることなどから、電話回線への工作、盗聴場所の確保をはじめ盗聴行為全般を通じ、終始何人に対しても警察宮による行為でないことを装う行動をとっていた」との事実認定を前提として判断をしたものと認識している。
(7)緒方氏とその家族らが提起した損害賠償請求訴訟の判決結果、事実認定について政府として把握している内容を明らかにされたい。
*御質問の損害賠償請求訴訟については、平成九年六月二十六日、東京高等裁判所において、神奈川県及び国の損害賠償責任を認める旨の判決がなされ、確定している。同判決は、その理由として、「本件盗聴行為は、神奈川県警察本部警備部公安第一課所属の警察官である第一審被告個人三名が、いずれも第一審被告県の職務として行ったものと推認することができるというべきである。」、「県警本部長ないし同警備部長が、同公安第一課長を通じての(県警本部長については、同警備部長、同公安第一課長を通じての)又は直接的な指示、共謀、企図、容認ないし奨励等の下に本件盗聴を行わせたものと認めることはできないというべきであり、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。」、「県警警備部長は、部務を掌理する者として、同警備部に属する同公安第一課ないしその所属の警察官である第一審被告個人三名らによる本件盗聴行為の計画ないし実行を予見し、回避することができたのにこれを怠り、本件盗聴行為を回避しなかった点において過失があったものというべきである。」と判示している。
(8)付審判請求に対する決定、損害賠償訴訟の判決で示された事実認定について、政府の見解を示されたい。
*警察においては、付審判請求に対する決定及び損害賠債請求訴訟の判決を厳粛に受け止めており、今後、二度とこのような事態が生じないよう、適正な職務執行に努めているところである。
(9)今回の政府見解に先立ち、本件について政府が衆議院、参議院で答弁してきた内容をそれぞれ具体的に明らかにされたい。
*本件について政府が衆議院及び参議院で答弁してきた内容については、昭和六十二年七月二十八日の衆議院地方行政委員会、同年八月二十六日の衆議院法務委員会、同年九月三日の参議院地方行政委員会、昭和六十三年四月二十八日の参議院法務委員会、平成十年三月二日及び同月五日の衆議院予算委員会等の各会議録を参照されたい。
二 責任の所在
(1)本件について、行政府の責任をどう考えるか。
*御質問の件については、損害賠償請求訴訟において、国家公務員である神奈川県警察本部警備部長の過失が認定され、国は、同部長の俸給等の負担者として、国家賠債法(昭和二十二年法律第百二十五号)第三条による損害賠償責任を負うべきものとされており、国は、当該賠債義務を履行している。なお、警察においては、東京地方検察庁検察官による起訴猶予処分及び本件関係訴訟の結果を厳粛に受け止めているところである。
(2)本件のような盗聴事件が再び起こることはないのか。
*およそ違法な傍受事件は起こってはならないし、起こることはないと確信している。
(3)前項で「ある」と答弁された場合、その可能性を小さくするためにどのような施策を取っているか。「ない」と答弁された場合、こうした盗聴事件が再発しない理由ならびに根拠をそれぞれ示されたい。
*警察においては、国民の信頼を裏切ることのないよう、適正な職務執行に努めているところであり、違法な傍受が行われることはないと確信している。
(4)本件以外に、過去警察、公安調査庁その他の機関で盗聴による情報収集が行われてきたか。行われてきたとすれば、適法な手続きによってなされたのか、それとも法的な根拠、権限なしに実施されたのか。行われていないとするならば、信頼に足る客観的な第三者機関などの調査にもとづいてそれが証明されるのか。あるいは、組織内で違法な盗聴がなされないようにチェックするための内部監察機関、調査機関などはあるのか。それとも単なる報告をもって「信しなさい」ということか。
*我が国の行政機関においては、違法な傍受は行われていない。なお、犯罪捜査のため、裁判官の発付する検証許可状を得て電話の通話内容の傍受が行われることはある。
また、各行政機関においては、一般的に適正な職務執行を確保するため所要の監督が行われており、行政機関によっては内部監察に関する規程が置かれているところである。
(5)組対法に関する与党三党の協議会で、自民・社民・さきがけの見解が「緒方靖夫氏宅盗聴事件は神奈川県警の組織的犯罪」との認定で一致したことを政府はどう考えるか。
*与党間の協議に関することであり、政府としては、見解を述べる立場にはないものと考える。
三 令状請求手続き
(1)逮捕状や捜索状、差し押さえ状などを捜査当局が裁判所に請求する場合、添付する疎明資料はどの程度の証明力が必要と考えるか。
*逮捕状を請求するには、刑事訴訟規則(昭和二十三年最高裁判所規則第三十二号)第百四十三条により、逮捕の理由(逮捕の必要を除く逮捕状発付の要件をいう。)及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければならない。差し押さえ、捜索又は検証のための令状を請求するには、同規則第百五十六条第一項により、被疑者又は被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供しなければならず、また、被疑者又は被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所についての捜索のための令状を請求するには、同条第三項により、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならない。
(2)令状請求手続きで、裁判所に提出した疎明資料は裁判所に残っているものと認識しているか。
*令状請求の際に提供される資料は、請求に対する裁判が行われた後は、請求者に返還される取扱いであると承知している。
(3)疎明資料が裁判所に残っていない場合、もし捜査当局が違法に令状を請求した疑いが生じたとしたら、何を令状請求の適否の判断材料にすればいいのか。また、担当裁判官が適法に判断しなかった疑いが生じた場合はどうか。
*令伏の請求又は発付の手続に違法があるとして、刑事訴訟法第四百二十九条又は第四百三十条による不服申立てを受けた裁判所は、同法第四十三条により事実の取調べをすることができ、その一環として、令状請求書や令状請求の際に提供された資料の提出を受けることもできる。
(4)昨年一年間、捜査機関が逮捕、捜索、差し押さえを裁判所に請求した件数、このうち却下された件数をそれぞれ明らかにされたい。
*御質問の平成九年中の件数については、いまだ統計がなく、お答えすることができない。平成八年中の件数について統計の範囲でお答えすると、同年中に、捜査機関が裁判所に逮捕状の発付を請求した件数は、十一万三千五百八十七件であり、そのうち三百六十七件が取り下げられ、四十五件が却下されている。また、捜査機関が裁判所に差押・捜索許可状又は検証許可状の発付を請求した件数は十六万三千九百五十三件であり、そのうち千九百十六件が取り下げられ、百二十三件が却下されている。なお、差押・捜索許可状の請求件数等については、検証許可状のそれと合わせた統計のみが作成されている。
(5) こうした令状請求手続きの現状をどう考えるか。組織的な犯罪に対処するための三法案にも令状請求手続きが盛り込まれているが、現在の要綱で十分か。
*捜査機関は、「公共の福祉の維持と基本的人権の保障を全うしつつ、事案の真相を明らかに」するという刑事訴訟法第一条の精神にのっとり、みだりに人権を侵害することのないよう慎重に検討した上で令状請求を行っており、また、請求を受けた裁判官は、独立した立場から慎重に審査して発付の可否を判断していると承知しており、現在の令状の請求及び発付の手続は、適正に行われているものと考える。
なお、組織的な犯罪に対処するための法整備に関する三法案においては、傍受令状の請求をすることができる者及び発付をすることができる者を限定するなどしており、関係者の権利保護及び処分の適正な実施の担保に十分配慮している。
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